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言語と発達・文化と発達—発達心理言語学の視点から

どのような社会でも、幼少期というのは他のどんな時期よりも一生のうちで、もっとも文化的にも環境的にも影響を受けやすいという、きわめて変化と激動に富んだ年代です。子どもの言語発達・文法規則の獲得を眺めてみても、類推的拡張という認知的作業が認められます。たとえば、ラ抜き(例:「見れる」「食べれる」)は日本語の乱れ、もしくは誤った使用の代表例として取り上げられてきた感がありますが、ラ行五段動詞(例:「走る」)が日本語動詞のプロトタイプとなっていることからの類推的拡張・単純化だと捉えれば、ラ抜き現象はシンプルに説明できます。本ゼミでは、まずラ抜き現象から解説を始めますが、全体としての主眼は、(1)幼少期と発達期全般にわたって、どのような事象が文化という枠組みを超えて普遍に存在しているのか、(2)またどのような事象が個々の文化に固有なのか、を探ることです。言い換えると、従来、試みられてきたのは、普遍性もしくは汎文化性、すなわち生得的要因と個人的差異という二極分割でした。しかし、その中間に社会的・文化的差異、すなわち文化的要因を認める必要性を本ゼミでは強調します。具体的には、ディスコース構造、ナラティヴにおける普遍性と固有性、特に体験談に認められる時制現象、視点と心理的枠組み等に焦点を当てることにします。ここでお話しすることから、発達の必然的結果として、話し言葉(語り・ナラティヴ)から書き言葉(リテラシー)へという発達の必然的結果を議論することも可能です。さらに発達と複数の言語の習得という観点から、バイリンガリズムの行動や個性に対する影響とバイリンガルである個人の諸様相を眺めることも可能でしょう。なぜなら、こうした事柄は日本の国際化という意味でも教育を考える上で非常に重要だからです。同時に、こうした議論は第2回ゼミ『認知言語学—認知意味論の視点から』で解説した「異なる言語を話す者は、その言語の相違ゆえに異なったように思考する」とするサピア・ウオーフ言語相対性仮説を再検証する必要性を感じさせずにはおきません。さまざまな具体例を通して言語相対性仮説を再度考えてみることで、本ゼミを締めくくります。

1. 可能表現:ラ抜きとプロトタイプ 1

2013-07-19 13:18:12 ID:185

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「可能表現:ラ抜きとプロトタイプ」第1回目の講義です。

【本講義の内容】
・イントロダクション
・「プロトタイプ理論」
・「言語変化」
・「動詞の屈折形」
[本講義では、まず最初にプロトタイプ理論の概略を解説し、プロトタイプ概念の理解を踏まえてラ抜き現象に入ります。]

【キーワード】
プロトタイプ(原型),典型的 vs. 周辺的[例:「鳥」のプロトタイプ(「鳥らしい鳥」 vs. 「鳥らしくない鳥」)],言語学上の品詞区分・境界線のあいまいさ),一段活用動詞(母音動詞・Vowel Verb・RU-Verb 例「起きる・見る・食べる・寝る」),五段活用動詞(子音動詞・Consonant Verb・U-Verb 例「飲む・書く・走る」),語幹,保守的可能形 vs. 革新的可能形(ラ抜き),類推変化,認知的単純化・規則化

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2. 可能表現:ラ抜きとプロトタイプ 2

2013-07-19 13:20:09 ID:186

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「可能表現:ラ抜きとプロトタイプ」第2回目の講義です。

【本講義の内容】
・「ラ抜き」
・「動詞の活用」
・「どうして可能形がラ抜きへと進んでいるのか」
[社会言語学的アプローチに基づいた記述文法は、規範文法と相対峙するする概念です。本講義では、記述文法の視点に立ちながら、社会的要因・言語的要因の双方からラ抜き現象を解説します。]

【キーワード】
一段動詞における受身 vs. 可能,類推変化,記述文法から眺めたラ抜き現象,社会言語学的アプローチ,可能表現,規範文法,ラ抜きにおける社会的要因[位相の問題(例:年齢・性・出身地域・社会階層)]・言語的要因[例:語幹の長さ(モーラ)・一段動詞のタイプ(上一段活用 vs. 下一段活用)・肯定形 vs. 否定形・動詞のタイプ・節のタイプ(主節 vs. 従属節)],言語的過重負担

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3. 可能表現:ラ抜きとプロトタイプ 3

2013-07-19 13:21:52 ID:187

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「可能表現:ラ抜きとプロトタイプ」第3回目の講義です。

【本講義の内容】
・「新語動詞の特徴」
・「方言」
・「日本語動詞のプロトタイプ」
[日本語の動詞では、辞書形が「る」で終わる動詞の存在が顕著です。ラ行五段活用動詞でない新語動詞(例:「ググる」「ファミる」)を探すことは困難でしょう。本講義では、ラ抜き現象をラ行五段動詞をベース、すなわちプロトタイプとした類推的拡張・単純化と捉えて解説します。これを踏まえて、方言、さらには日本語学習者のいわゆる「誤用」にも言及し、誤用が必ずしも誤用でないことを議論します。]

【キーワード】
プロトタイプ理論,ラ行五段活用,異分析,新語動詞(例:「ググる」「バミる」「ファミる」など),「幸せる」(山口県の方言),造語と五段活用,日本語動詞のプロトタイプ(日本語の動詞らしい動詞)=ラ行五段動詞,ラ抜き

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4. 可能表現:ラ抜きとプロトタイプ 4

2013-07-19 13:23:25 ID:188

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「可能表現:ラ抜きとプロトタイプ」第4回目の講義です。

【本講義の内容】
・「レ足す言葉」
・「可能表現再考」
[ここまで日本語動詞のプロトタイプとなるラ行五段動詞を説明してきましたが、本講義ではラ行五段動詞の可能形が一段動詞ではラ抜き現象を引き起こし、カ行(例:「書く」)やマ行(例:「読む」)など、ラ行以外の他の行の五段動詞に対してはレ足す現象(例:「書けれる」「読めれる」)を引き起こすプロセスを解説します。]

【キーワード】
「ラ抜き」から「レ足す」へ,過剰修正,新方言,「サ入れ」(例:「休まさせて」),ラ入れ言葉(例:「行かれる」「作られます」「入られた」など),プロトタイプ,異分析,類推,ラ行五段活用動詞が引き起こす「ラ抜き」と「レ足す」

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5. 可能表現:ラ抜きとプロトタイプ 5

2013-07-19 13:24:51 ID:189

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「可能表現:ラ抜きとプロトタイプ」第5回目の講義です。

【本講義の内容】
・「まとめ」
[子どもの言語発達・文法規則の獲得でも、類推的拡張は頻繁に認められる現象です。本ゼミでは日本語動詞のプロトタイプとなるラ行五段動詞がラ抜き現象に多大な影響(具体的には、類推的拡張・単純化)を与えていることを詳細に解説してきましたが、本講義ではこれまで説明してきた事柄の総まとめを行ないます。]

【キーワード】
ラ抜き,認知的単純化,類推変化,整合性,類推的拡張,プロトタイプ,歴史的変化,ラ行五段化,レ足す,スキーマ(体系的知識)

【参考文献】
真田信治(編)(2006)『社会言語学の展望』くろしお出版

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6. 語り:時制現象・ナラティヴ現在 1

2013-09-04 10:54:57 ID:190

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「語り:時制現象・ナラティヴ現在」第1回目の講義です。

【本講義の内容】
・イントロダクション
・「語りとは:聞き手にどのように語りかけるのか?」
・「時制」
・「時制現象をどう捉えるか」
[本講義では、「認知言語学:言語相対性仮説2, 3」で言及した時制現象を「ナラティヴ現在」という概念を用いて、異なる視点から解説します。]

【キーワード】
(登場人物同士の)微視的コミュニケーション vs. (作者・登場人物が読者・観客に語りかける)巨視的コミュニケーション,時制,過去形,タ形,日本語のル形=ナラティヴ現在,時制のシフト(時間的距離 vs. 心理的距離),条件文,仮定表現,英語における仮定法過去(現在の反事実)vs. 仮定法過去完了(過去の反事実),時間軸,有標化,心理的顕著さ

【参考文献】
山口治彦(2011)「役割語のエコロジー」金水敏(編)『役割語研究の展開』 p.29 くろしお出版

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7. 語り:時制現象・ナラティヴ現在 2

2013-09-04 11:31:07 ID:197

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「語り:時制現象・ナラティヴ現在」第2回目の講義です。

【本講義の内容】
・「小説に見られる時制現象」
・「日本語教科書に見られる時制現象」
[本講義では、実際の小説2本と上級日本語学習者用の教科書に掲載されているエッセイ、計3本から例をとりながら、日本語における時制現象を検証します。]

【キーワード】
時制,日英比較,時制選択の基準(可動的(日本語)vs. 固定的(英語)),心理的補足

【引用文献】
阿部祐子・亀田美保・桑原直子・田口典子・長田龍典・古家淳・松田浩志(2006)「顔をなくしたふるさと」 p. 58 『テーマ別 上級で学ぶ日本語(改訂版)』 研究社
江國香織(1996)「デューク」 (pp. 11-19:引用ページ 12-15, 17-18) 『つめたいよるに』 新潮社
江國香織(2005)「サマーブランケット」 (pp. 49-67:引用ページ 51-52) 『泳ぐのに、安全でも適切でもありません』 集英社

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8. 語り:時制現象・ナラティヴ現在 3

2013-09-04 11:40:01 ID:199

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「語り:時制現象・ナラティヴ現在」第3回目の講義です。

【本講義の内容】
・「時制現象をどう捉えるか」
・「語りとは:ナラティヴ現在」
・「Labovの内容(機能)分析」
・「(成人話者が語る)幼い頃の思い出」
・「視点」と話者の「声」
[本講義では、社会言語学者William Labovの提唱する内容(機能)分析を用いて、成人話者が語る「幼い頃の思い出」を分析し、語りの中で話者の視点・声がどのように響いているかを探ります。]

【キーワード】
日本語の現在形・過去形,ナラティブ現在(語りでの現在形の使用),臨場感,語り,語り手,聞き手,語りの普遍的要素(要旨・導入部,設定・方向づけ,出来事,評価,解決・結果,結語・終結部),独り語り,直接話法,心理的補足,婉曲表現,「です・ます」表現

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9. 言語・文化・人間発達 1

2013-09-09 17:11:13 ID:200

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「言語・文化・人間関係」第1回目の講義です。

【本講義の内容】
・イントロダクション
・「言語と文化」
[本講義では、これまで議論してきた言語事象の総まとめとして、文化を再定義し、人間発達・認知発達の観点を含めて言語発達を解説します。]

【キーワード】
社会言語学,認知言語学,文化,自己,ポライトネス,言語変化,性差,言語発達,エテック(etic) vs. エミック(emic)[cf. phoneric vs. phonemic],ステレオタイプ(固定的概念),認知普遍性(色彩)

【参考文献】
Berlin, B., & Kay, P.(1969) Basic color terms: Their universality and evolution. Berkeley, CA: University of California Press.

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10. 言語・文化・人間発達 2

2013-09-09 17:14:08 ID:201

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「言語・文化・人間関係」第2回目の講義です。

【本講義の内容】
・「言語と文化」
[文化的差異を理解する指針として、「西洋 対 東洋」という構図、「個人主義社会 対 集団主義社会」という対立構図、「ロウ・コンテクスト(low context)文化 対 ハイ・コンテクスト(high context)文化」という構図等がこれまで呈示されてきました。本講義では、こうした単純な二極分割が適切かどうかを議論します。さらに、人間発達のプロセスで、人は「文化」という「メガネ・レンズ」を通して、どのように世界を見るようになるのかを考察します]

【キーワード】
サピア・ウォーフ仮説(Sapir-Whorf hypothesis),甘え,バイリンガル,共有(共通)基底言語能力(common underlying proficiency(CUP),間接受動表現,自立している自己 vs. 相互依存的な自己,西洋的 vs. 東洋的,個人主義 vs. 集団主義,ロウ・コンテクスト vs. ハイ・コンテクスト,文化的差異,性差,エンコーディング vs. ディコーディング,フィルターと自文化化

【参考文献】
D.マツモト(2001)南雅彦・佐藤公代(訳)『文化と心理学-比較文化心理学入門』北大路書房

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11. 言語・文化・人間発達 3

2013-09-09 17:16:25 ID:202

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「言語・文化・人間関係」第3回目の講義です。

【本講義の内容】
・「人間発達」
・「愛着行動」
・「人間発達・言語発達」
[人間発達には、言語発達、認知発達、心理・社会的発達等さまざまな様相があります。本講義では、「愛着行動(attachment)」を例に取りながら、ストレンジ・シチュエーション法等の研究に潜む文化的な先入観、すなわちステレオタイプ(文化的価値観)に基づいた解釈の危険性を検討します。また、アメリカの心理学を再度、考察し、Watsonから、Skinner、そしてChomskyへと歴史的変化を辿ります。]

【キーワード】
言語発達,認知発達,心理社会的発達,模倣学習,愛着行動,ストレンジ・シチュエーション(strange situation)法,生得的なものを強調する「自然主義 (nativism)」 vs. 後天的なものを強調する「経験主義 (empiricism)」,生まれ(生得要因)vs. 育ち(環境要因)

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12. 言語・文化・人間発達 4

2013-09-09 17:18:11 ID:203

くろしお出版による南雅彦先生(サンフランシスコ州立大学教授・国立国語研究所客員教授)の講義配信、「言語・文化・人間関係」第4回目の講義です。

【本講義の内容】
・「人間発達(ピアジェ)」
・「人間発達から言語発達へ」
・「言語発達と方言」
・「人間発達・言語発達が連続帯なら」
・「要約」
[Chomskyとは異なり、Piagetは言語発達は認知発達に伴うものと捉えました。本講義では、Piagetの発達段階説に対する疑問から始まり、人間発達・言語発達のプロセスでの言語規則の形成を考察します。幼児の言語規則の形成、方言に認められる単純化された文法規則、さらに日本語に認められる共同構築(co-construction)等を探りながら、従来の「普遍性・汎文化性 vs. 個人的差異」という二極分割ではなく、社会・文化的要因の重要性を考察します。]

【キーワード】
4段階の人間・認知発達(感覚運動期,前操作期,具体的操作期,形式的操作期),デカラージェ(decalage),3つ山実験,自己中心性(egocentrism),保存概念(conservation),規則の内在化,wug test,類推的拡張単純化,子どもの言語習得,過剰一般化(例:再帰代名詞),対照談話分析,言語の普遍性・生得的要因,個人的差異,社会的・文化的差異

【参考文献】
Berko, J.(1958)The child’s learning of English morphology. Word, 14, 150-177.
Piaget. J., & Inhelder, B.(1967)The child's conception of space(F. J. Langdon & J. L. Lunzer, Trans). New York: Norton.(Original work published 1948)p.211
Wynn, K.(1992) Evidence against empiricist accounts of the original of numerical knowledge. Mind and Language, 7, pp.315-322
片桐恭弘・井出祥子(2009)「より豊かな言語理論の構築に向けて」『月刊言語』第38巻12号,pp.6-7

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